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12.妹尼の婿中将訪れる 浮舟を見て心動く
〈p259 尼君の亡くなった娘の婿君は、今は中将になっています。〉
①新しい登場人物、中将の登場
中将=妹尼の娘婿 5~6年前に娘は亡くなっている。
中将だから結構の身分か。
→この男が浮舟に絡んでくる。新しい物語はどう展開するのか。
②垣ほに植ゑたる撫子もおもしろく、女郎花、桔梗など咲きはじめたるに、、
→小野の里の秋の描写。このところ風景描写は少なかったが、、、。
③年二十七八のほどにて、ねびととのひ、心地なからぬさまもてつけたり。
→中将は27~8才。匂宮が28才、薫が27才だから同年齢である。
④妹尼と中将の対話
→娘が亡くなって大分年も経っているのにまだ娘のことが忘れられない妹尼。
→中将も昔の義母を見舞うとは殊勝な心がけである。
⑤姫君は、我は我と思ひ出づる方多くて、ながめ出だしたまへるさまいとうつくし。
→浮舟。はじめて「姫君」と呼ばれる(脚注8)。恋の条件が整った?まだでしょうに!
⑥女房たちの心
「、、同じくは、昔のさまにておはしまさせばや。いとよき御あはひならむかし」
→浮舟の心を知らない女房たちに悪気はない。正直な願望であろう。
⑦浮舟の心中
あないみじや、世にありて、いかにもいかにも人に見えんこそ。それにつけてぞ昔のこと思ひ出でらるべき、さやうの筋は、思ひ絶えて忘れなん
→まだ心の傷は癒えていない(いつ癒えるのか分からないが)。女房たちの言葉にはぞっとしたことだろう。
⑧中将「かの廊のつま入りつるほど、風の騒がしかりつる紛れに、簾の隙より、なべてのさまにはあるまじかりつる人の、うち垂れ髪の見えつるは、世を背きたまへるあたりに、誰ぞとなん見驚かれつる」
→いつも男が女に懸想するのは垣間見がきっかけである。
⑨中将の問いかけに少将の尼は全てを語るわけではないが妹尼が亡き娘に代って手に入れ可愛がっている姫であることを告げる。
→中将は「おお、そうだったのか」と身を乗り出したことであろう。
⑩妹尼「いときよげに、あらまほしくもねびまさりたまひにけるかな。同じくは、昔のやうにても見たてまつらばや」
→妹尼の気持ちは明快である。中将に浮舟の所に通ってもらいたい。
→こんな小野の山里、尼さんばかりの所へ通えるのかは疑問だが。
⑪藤中納言の御あたりには、絶えず通ひたまふやうなれど、心もとどめたまはず、親の殿がちになんものしたまふとこそ言ふなれ
→中将は藤中納言の娘の所へ通っている。
→ということは浮舟は第二夫人でよしと妹尼は考えてるのだろうか。
⑫もう少し心を開いて欲しいと頼む妹尼に浮舟は、
「隔てきこゆる心もはべらねど、あやしく生き返りけるほどに、よろづのこと夢のやうにたどられて、、、、、今は、知るべき人世にあらんとも思ひ出でず、ひたみちにこそ睦ましく思ひきこゆれ」
→浮舟には新しい男のことを考える気持ちなど毛頭湧いて来ない。
→折角平静を保ってきた浮舟の心にまた苦悩が忍び寄って来ている。
浮舟の前に新たな公達の登場、何やら恋の予感はしますが果たして浮舟の反応は?
ようやく小野の里で平穏な日々を得始めた浮舟にとっては迷惑千万ではないでしょうか。
妹尼は亡き娘の婿との縁を願っている・・・
君に蓮の実などやうのもの出だしたれば(P172-13行目)
この当時から蓮の実はあったようですね。
浮舟の本心をよそに周囲の反応はおせっかいで要らぬ世話のように感じます。
優しい妹尼の気持ち、わからないでもありません。
でもここはしばらくそっと見守って静かに心の癒えるのを待ちたいですね。
ありがとうございます。
高貴で優しく親切な人々に身を委ねている浮舟、今としては最上の状況でしょう。そこへ男盛りの若公達が登場。妹尼が昔のように中将が浮舟の所へ通ってくれるようになったらと思うのも自然でしょうし、中将が真面目に恋を仕掛けるのも自然だと思います。本当にいい人ばかりですねぇ。
普通なら「二人の恋がうまくいくといいのになあ」と応援したく思うところでしょうがここまで浮舟の悲話を読んできた読者は「そんなことあり得ない!」と拒否反応を示す。挙句の果ては「中将め、しつこいぞ!」と思ってしまう。これも紫式部の思う壺なんでしょうね。