p122-126
21.薫、宮の君を訪い、世間の無常を思う
〈p222 宮の君は、女一の宮のおいでになるこの西の対に、〉
①宮の君は、この西の対にぞ御方したりける。
→普通の女房の局よりはちょっとましな居場所でももらったのであろうか。
②親王の、昔心寄せたまひしものをと言ひなして、そなたへおはしぬ。
→この時宮の君でももらっておけばよかったのに。
③並々の人めきて心地なのさまやとものうければ、
→女房が宮の君に取り次がないのはよくない。
→でもよく考えてみると宮の君も女房ではないのか。
④宮の君「松も昔の、とのみながめらるるにも、もとよりなどのたまふ筋は、まめやかに頼もしうこそは」
→薫に血筋のことを言われると宮の君も「そうだ、私だって、、」と思ったことだろう。
→「松も昔の」百人一首No.34 藤原興風
誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに
⑤ただ今は、いかで、かばかりも、人に声聞かすべきものとならひたまひけんとなまうしろめたし。
→深窓の姫君なら直に声など聞かせはしない。女房になれば声も顔も人にさらすことになってしまう。哀れである。
22.薫、宇治のゆかりを想い、わが人生を詠嘆
〈p224 「この方こそは、高貴な父宮が掌中の珠として大切に〉
①「これこそは、限りなき人のかしづき生ほしたてたまへる姫君、また、かばかりぞ多くはあるべき、、、」
→宮の君も宇治の姫たちも父は皇子。
→宮の君に対すると薫はどうしても宇治の姫たちとのことを想う。
宮の君(父式部卿宮)=嫁きそびれて今は女一の宮の女房
大君(父八の宮)=死亡 中の君=匂宮の第二夫人 浮舟=失踪
②何ごとにつけても、ただかの一つゆかりをぞ思ひ出でたまひける。
→薫にとって宇治の姫たちは何であったのだろう。皆それぞれ愛おしく思い、自分のものにしようと考えたのだが結局は三人とも自分のものにすることができなかった。
③あやしうつらかりける契りどもを、つくづくと思ひつづけながめたまふ夕暮、蜻蛉のものはかなげに飛びちがふを、
ありと見て手にはとられず見ればまた行く方もしらず消えしかげろふ 代表歌
→あるのかないのか、、はかない蜻蛉に因んだ素晴らしい歌ではないでしょうか。
→薫の心情をよく言い表していると思います。
④あるかなきかの」と例の、独りごちたまふとかや。
→強烈な終わり方ではないでしょうか。
→源氏物語はこの巻で終わっていると考える説もあるようです。
⑤余談 源氏物語に出てくる昆虫
・蛍=夏の象徴として随所に出てくる。勿論最有名なのは「蛍」の巻
・蝉=「常夏」「空蝉」
・蜩=「若菜下」「幻」「夕霧」「宿木」(鳴き声に特徴があったからか)
・蟋蟀(きりぎりす)=「夕顔」「総角」
・鈴虫、松虫=「桐壷」「賢木」「鈴虫」
・蜻蛉
・蝶=「胡蝶」
かくて蜻蛉は終わりいよいよ最終月、手習に移ります。
女一の宮、中の君、そして宮の君への恋慕、何とも気の多いことです。
女房にも格付けがあったのでしょうか?
どれもが実らぬ薫の儚き恋、謹厳実直の薫のイメージは大きく崩れてしまいました。
宮の君への憐憫と憧れそして八の宮の姫君たちへの感慨にふける薫。
ありと見て手にはとられず見ればまた行く方も知らず消えしかげろふ
薫の和歌では一番印象的で心に残る和歌ですね。
まさに薫の恋は「かげろふ」そのものです。
それと見し夢のゆくへぞおぼろなる
あるかなきかにかげろふの立つ
ありがとうございます。
1.薫の恋は「かげろふ」そのものです。本当にそうですねぇ。
薫と宇治の姫たちの過去を振り返ってみました。
K22年秋 初めて大君・中の君を垣間見
K23年秋 八の宮死去
K24年春~夏 大君に迫るも拒否される
秋 大君死去
K25年春 中の君、二条院(匂宮)へ
K26年春 浮舟を垣間見
秋 浮舟と契る
K27年春 浮舟失踪
この5年間、薫は宇治にトンボ捕りに行った。何度もトライして捕れそうだったがなかなか捕れない。そしてついに一匹お宝もののトンボを捕まえた。でもそれも束の間、捕えたトンボは虫籠から逃げてしまった。、、、
2.歌、いいですね。薫の恋のはかなさですね。
かげろふ = 蜻蛉であり陽炎である。
薫には怒りや失望ばかりぶつけていますが、この人、よく考えると孤独で可哀そうな人なのかも知れませんね。