p102-107
31.中将の君、事情を知って浮舟を引き取る
〈p259 姫君の乳母は常陸邸から迎えの車をまわしてもらい、〉
①乳母が事の次第を中将の君に伝えに行く。
中将の君「人もけしからぬさまに言ひ思ふらむ、正身もいかが思すべき、かかる筋のもの憎みは、あて人もなきものなり」
→中将の君は二つのことを心配する。
一つは勿論浮舟が傷つくこと。もう一つは中の君を嫉妬で怒らせること。
(これは八の宮の召人でしかなかった中将の君ならではの感覚であろう)
②早速中将の君は中の君の所へ浮舟を引き取りに行く。
中将の君としては浮舟を中の君の所へ預ってもらったのは無理があったと後悔したのだろう。
③中の君「ここは、何ごとかうしろめたくおぼえたまふべき。とてもかくても、うとうとしく思ひ放ちきこえばこそあらめ、けしからずだちてよからぬ人の時々ものしたまふめれど、」
→中の君は大人である。六の君との葛藤に比べれば匂宮が浮舟に手を出したとて嫉妬することはないのではないか。
④中将の君は性急に中の君に対しまくしたてる。
「さらに御心をば隔てありても思ひきこえさせはべらず。かたはらいたうゆるしなかりし筋は、何にかかけても聞こえさせはべらん」
→脚注にもあるが中将の君の対応は感情的に過ぎよう。八の宮が嫌ったのもこういう点だったのかもしれない。
32.中将の君、浮舟を三条の小家に移す
〈p262 母君は昨夜の一件を浅ましく不体裁な不祥事として〉
①かやうの方違へ所と思ひて、小さき家設けたりけり。三条わたりに、さればみたるが、まだ造りさしたる所なれば、、
→何かの時のため貴族はこういう避難所を持っていたのか。三条の常陸介方違え所、二条院からはほど近いところである。
②性急、感情的ではあるが中将の君の浮舟への想い(浮舟を幸せにしたい)は強いものがある。
→強い母性を感じさせる。
③浮舟 君は、うち泣きて、世にあらんことところせげなる身と思ひ屈したまへるさまいとあはれなり。
→母は帰ってしまう。浮舟はつくづく心細かったことだろう。
④作者も中将の君の腹立ちやすい様をストレートに書いている。
心地なくなどはあらぬ人の、なま腹立ちやすく、思ひのままにぞすこしありける。
⑤「ここは、まだかくあばれて、危げなる所なめり、さる心したまへ」
→いかにも不用心、物騒な住まいである。一人残される浮舟、大丈夫でしょうか。。
事の次第を知った中将の君、割合と感情的で短慮な性格ですね。
思ったらすぐ行動に移すも、それがことごとく裏目に出る、思慮が足りないと言うかそんな感じに見受けられます。
三条の小家に取り残された浮舟、さぞかし心細く不安だったでしょね。
それにしても浮舟、よくよく身の落ち着くところがないのは気の毒なことです。
自分の意思などこれっぽちもなく周囲に振り回され翻弄される姿に先の多難さを想像してしまいます。
ありがとうございます。
中の君に頼んで浮舟を二条院で預ってもらったもののすぐ他所に連れ出そうとする中将の君、いかにも性急で感情的と思いますが、乳母からはどんな語り口の報告があったのでしょうか。現場に居合わせて浮舟の身を自分が守ったとの自負のある乳母はけっこうオーバーに多少の脚色も混ぜてご注進したのではないでしょうか。
「とんでもない所ですよ。このままではオオカミの餌食になり捨てられるだけ。すぐどこかへお移しなさいませ。そして薫さまを待ちましょう」
中将の君は自分の経験から匂宮に情けをかけられても後で捨てられるだけとの固定観念があったのでしょう。普通の母親なら「宮さまのお手がつく」なんて願ってもなかったことかも知れませんが。(薫の女君として迎えて欲しいとの気持ちでいっぱいだったのだと思います)
一方中将の君に対する中の君の言葉は冷静でさすが匂宮夫人で御子も生んだ余裕が感じられます。