東屋(27・28) 乳母、浮舟を慰める

p88-95
27.乳母、嘆きかつ浮舟を慰め励ます
 〈p249 姫君は恐ろしい夢の覚めたような気持ちで、〉

 ①浮舟 恐ろしき夢のさめたる心地して、汗におし漬して臥したまへり。
  →匂宮が浮舟を抑えつけていたのは推定2時間以上。浮舟は生きた心地がしなかったろう。
  →抑える匂宮も疲れたことであろうに。

 ②乳母の浮舟への述懐。誠に尤もで面白い。
  (p91 脚注 都人にはない図太い神経。東国的な野生、強さがある)

  乳母「降魔の相を出だして、つと見たてまつりつれば、いとむくつけく下衆下衆しき女と思して、手をいたく抓ませたまひつるこそ、直人の懸想だちて、いとをかしくもおぼえはべりつれ」
  →「降魔の相」 ガマ(蝦蟇)みたいな顔かと思っていたのですが、、。
  →「手を抓る」というのも如何にも王朝人らしい。蹴飛ばすなんてことはしないのでしょうね。

 ③「かの殿には、今日もいみじくいさかひたまひけり」
  →新婿を放ったらかしにして姿をくらました中将の君を常陸介が罵倒する。
  →常陸介の気持ちも分からなくはない。でも自分が強引に婿を取り込んだのですからねぇ。

 ④落ち込む浮舟、慰める乳母
  乳母「さがなき継母に憎まれんよりはこれはいとやすし。ともかくもしたてまつりたまひてん。な思し屈ぜそ。さりとも、初瀬の観音おはしませば、あはれと思ひきこえたまふらん」
  →父はなくても(常陸介はもとより父ではない)母がいるじゃないですか。それに初瀬観音の思し召しもあるでしょう。

 ⑤「あが君は人笑はれにてはやみたまひなむや」と、世をやすげに言ひゐたり。
  →この乳母、誠に頼もしい。前向きにひたすらに仕える人に真心を尽す。
   「世の中ってそんな心配することないですよ!」
   
28.匂宮参内 中の君、浮舟を居間に招く
 〈p251 匂宮は、急いで宮中にお出かけになる御様子です。〉

 ①匂宮が出かけ中の君は浮舟を慰めようと声をかけるが浮舟は気分悪いとて来ない。
  →ショックを受けている浮舟、断るのも仕方ない所か。

 ②中の君、色々に思い続ける。
  ・匂宮に浮舟のことがばれてしまった。薫は怒ることだろう。
  ・匂宮は嫉妬深いがあっさりしている。薫は根にもって忘れないだろう。
  ・その薫は私にも横恋慕をしかけてくる。止めてほしいのに。

 ③いと多かる御髪なれば、とみにもえほしやらず。起きゐたまへるも苦し。
  →髪、まだ乾かない。ドライヤーも扇風機もない。せいぜい団扇で煽ぐくらいだったのだろう。
  →冬の洗髪は寒かったろう。殆ど洗髪しなかったのかもしれない。

  もう一か所洗髪が出てくるのは若菜下30 p152
   発病した紫の上が回復して猛暑の6月に久しぶりに髪を洗いさっぱりする。

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4 Responses to 東屋(27・28) 乳母、浮舟を慰める

  1. 青玉 のコメント:

    二時間も自由を奪われていたとは!!そりゃ~浮舟、生きた心地がしなかったでしょう、可哀想にね~。
    乳母、「降魔の相を出だして」 面白い表現ですね。場面が浮かびます。
    それに対して 「手をいたく抓ませたまひつるこそ
    この深刻な場面にしては何やら滑稽感が否めないですね。
    この乳母、まことに頼もしいです。
    落ち込む女主人を慰め励ます、更に前向きで楽観的な姿勢は見上げたものです。

    ここでも匂宮の幼児性が見られ青黄の宮さんの見解に納得の思いです。
    幼児は気に入らないと相手を抓ったり叩いたりしますものね。
    この幼児そのものを常に意識していれば何だか許せるかな~とも、幼児に一々本気で腹を立てるのも大人げないかなとも・・・

    中の君、浮舟双方の複雑な困惑の姿に義理の姉妹の立場の苦悩が感じられます。

    当時の洗髪の様子、想像するも大変な作業なのですね。
    昔の女性はつくづく我慢強い!!私など我儘で辛抱が足りません。
    式部さんの洗髪に関するコメントからも推測され、大変だな~と・・・

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      おっしゃる通り浮舟、いい乳母を持ちましたねぇ。27段で乳母が浮舟に語る部分はよくできていると思います。「降魔の相」「手を抓る」と具体的に書かれていてよく分かるし何となく滑稽味もある。きっと人柄的に明るくユーモラスで肝っ玉も(身体つきも)太い頼りがいのあるおばさんだったのでしょう(それでいて下品な感じはしない)。匂宮にぎゅーっと抓られて「あら、おやめになって!」って源典侍みたいににやっと微笑み返せばよかったのに、、。

      もう一つ乳母が語る常陸介と中将の君との大喧嘩の様子も尤もでありそりゃそうだろうなあと思いました。

  2. 式部 のコメント:

     私もガマと音で聴くと、歌舞伎の児雷也と巨大な蝦蟇を連想してしまいます。
     漢字を見れば「降魔の相」でその間違いに気がつくのですが。しかし現代の我々に「如来八相の一つ」だと解説されてもぴんときませんよねえ。イメージとしては巨大な蝦蟇がでんと座って睨みつけている図のほうが面白いです。しかしながら正しく理解しましょう。
     気になってついでに「今昔物語集 巻五 第二十一話」まで読んでしまいました。
    虎の威を借りた天竺の狐が責められて菩提心をおこした話で、そこに「仙人忽ち降魔相に成りて釼・鉾を以て責るに~~」という記述がありました。
     平安貴族たちは中国の仏教説話にも相当詳しかったのでしょうね。
     主人大事で命がけのこの乳母、好感がもてます。
     高貴な身分に慣れた匂宮にとって驚くような信じがたい初めての人物(女性)がこの乳母だったのではないでしょうか。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。今昔物語までチェックされましたか。さすがです。「虎の威を借る狐」の話はここからなんでしょうか。

      匂宮もびっくりしたでしょうね。何ごとも反対されたり拒まれたりしたことなかったでしょうからねぇ。きっと「こりゃあいかんな」と天敵みたいに思ったことでしょう。

      この乳母が仏教説話から「降魔の相」を引用するのですからレベルが高い。テレビとマンガとゲームの現代からは及びもつかない聖代だと思います。

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