匂兵部卿(1・2・3・4・5) 源氏亡き後、匂宮と薫

匂兵部卿 春の日の光の名残花ぞのに匂ひ薫ると思ほゆるかな(与謝野晶子)

さて第三部に入ります。その内匂宮三帖と呼ばれる匂兵部卿・紅梅・竹河(「竹河三帖」と呼ぶのかと思ってましたが「匂宮三帖」が普通のようなので改めます)は古来紫式部の作ではないのではと言われています。確かに素人が読んでも第二部までと感じが違うなあと思います。それにストーリー的にも面白くないしさっと通り過ぎようと思います。
 →(大野)読んでいたらいやになる。研究してみるといろいろ怪しい。
  (丸谷)読者はこの三巻を飛ばすほうがいいとおすすめしたい。

先ず匂兵部卿。源氏死後の人々の動静が語られ宇治十帖への橋渡し予備知識としての役割りの帖として読んでいきましょう。特に薫が自身の出生に疑問を感じる所は重要です。

年立は薫の年令で示します。先ずK14年でこれはG61年にあたります。即ち幻から8年間のブランクを経ていることになります。源氏は幻の翌年出家、その後嵯峨御堂で亡くなったということになっています。

p12-24
1.源氏の死後、匂宮と薫並んで世評高し
 〈寂聴訳巻七 p332 光源氏がお亡くなりになった後には、〉

 ①光隠れたまひにし後、
  →光源氏の死後、シンボリックな冒頭。

 ②当代の三の宮(匂宮)、宮の若君(薫)が当代きっての若君たち。でも源氏に比べると劣る。
  匂宮 15才 紫の上の二条院を里邸にしている 元服して匂兵部卿と呼ばれる
  
2.今上の皇子たちと、夕霧の子女のこと
 〈p333 御姉君の女一の宮は、〉

 ①女一の宮 紫の上の秘蔵っ子 六条院春の町に
  二の宮  これも六条院春の町が里邸。次の東宮候補。夕霧の中の君と結婚している。
  春宮 21才 夕霧の大姫が参内している。
  夕霧の六の君(藤典侍腹)が際立っており世評に高いが匂宮は興味を示さない。

3.源氏の御方々のその後と夕霧の配慮
 〈p334 二条の院や六条の院にたくさん住んでいらっしゃった〉

 ①花散里 六条院夏の町から二条東院へ移っている。
  入道の宮(女三の宮)は六条院春の町から三条宮(朱雀院から譲られた)へ移住
  
 ②花散里の居た六条院夏の町に夕霧は女二の宮を住まわせ雲居雁の三条邸と15日づつ通っている。
  →相変わらず律儀な夕霧。でも藤典侍はどうしたのだろう?

 ③明石の君は六条院の自分の町(冬の町)で健在。
  結局六条院は明石一族の町になったといわれる所以

4.薫、冷泉院と中宮の寵を得て栄進する
 〈p337 女三の尼宮の若君は、〉

 ①薫 源氏の遺言で冷泉院が面倒をみている。
  冷泉院と実母女三の宮の三条宮を行き来している。
  14才 右近中将になる  (K14年です)

 ②冷泉院は源氏の養女である秋好中宮を寵愛している。その延長線にある(源氏の息子の)薫も可愛くて仕方がない。

 ③故致仕の大殿の女御ときこえし御腹に、女宮ただ一ところおはしける
  →あっと驚く記述。その後冷泉院は弘徽殿女御に娘が一人生まれている!

5.薫、わが出生の秘密を感知して苦悩する
 〈p338 中将の君の母君の尼宮は、〉

 ①薫の母、女三の宮は三条宮で勤行三昧。薫の来るのを頼りにしている。
 薫は冷泉院にも宮中(今上帝・東宮など)にもひっぱりだこで母の所へはなかなか行けない。

 ②薫「いかなりけることにかは。何の契りにて、かう安からぬ思ひそひたる身にしもなり出でけん。善巧太子のわが身に問ひけん悟りをも得てしがな」

  おぼつかな誰に問はましいかにしてはじめもはても知らぬわが身ぞ 代表歌
  →自分の出生に疑問を抱く薫。宇治十帖の薫物語はここから始まるといえよう。

 ③薫は六条院で明石の中宮、匂宮たちともいっしょに遊んで育った仲。
  長兄にあたる夕霧も源氏晩年の子どもとして目をかけている。
  →薫の位置づけをしっかり把握しておきましょう。

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4 Responses to 匂兵部卿(1・2・3・4・5) 源氏亡き後、匂宮と薫

  1. 青玉 のコメント:

    リンボー先生のは幻までしか読まなかったし寂聴さんのは遥か昔でほとんど記憶にありません。
    どうしようかと思いましたがさほど重要ではないとの事、さらりと流せばいいかしら?

    なるほど読んでみれば冒頭「光隠れたまひにし後」とあり源氏亡き後8年間の空白と人物の説明があり歳月の流れを感じます。
    登場人物が源氏の子や孫世代に移っていくわけですね。

    今日は大体の流れと人物の関係を掴み、なかでも薫と匂宮が特筆に値し主役になっていくのですね。
    夕霧が女二の宮と雲居雁を「夜ごとに十五日づつ、うるはしう通ひ住みたまひける」いかにも夕霧らしいですね。

    薫の出生の秘密に対しては冷泉院も夕霧も誰も知らないということですね・・・
    薫の悩みと憂愁が気になるところです。

    何だか素人目にも書き急いだという感じが無きにしも非ずです。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      1.「匂宮」三帖についてどうでもいいと言い過ぎたかもしれません。右の現代語訳と照らしてそれなりに読んでいただけばいいと思います。原文を読んで自分としての感想を持ってください。(私はこの匂宮三帖と帚木の雨夜の品定めの部分は全く面白くなく身が入らないので何度読んでもさっぱり頭に入ってきませんでした)

      2.薫の出生の秘密のことは大事です。自分の出生に疑問を感じている薫が今後どういう心持になってどう生きて行こうとするのか、重要テーマとなっていきます。

       薫の出生の秘密
         冷泉院は知りません。自分の弟だと思っているでしょう。でも冷泉院の出生の秘密は誰にも言えないから、薫に「弟よ」、とは言えません。

         夕霧は薫の誕生・柏木の死・女三の宮の出家に疑問を持っていたので知っていたのかもしれません。でも夕霧は沈黙を守っています。読者は「夕霧ははっきりとは知っていない」ということでいいと思います。

         14才の若者が自分の生い立ちに疑問を持つものの誰も聞く人がいない、、、天真爛漫な気持ちにはなれないでしょうね。

  2. 青玉 のコメント:

    了解です。
    いままで通り淡々と右欄の現代語訳を頼りに読みすすめていきますね。

    それにしても出生の秘密を抱えた冷泉院がそれとは知らず同じく出生に疑問を持つ薫の世話をする・・・皮肉なものですね。
    血縁的には何の関係もないわけですよね。
    お互いがお互いを知らずに暮らしていく・・・
    真実を知ったほうがいいのか知らずにいたほうがいいいのかいずれにしても不幸ですね。
    人間の「業」を感じます。

    • 清々爺 のコメント:

      そうですねぇ。源氏の不義の子、冷泉院と源氏が不義をされた子、薫ですからね。すごいシンメトリーです。

      (二人の血縁関係ですが分かってる限りで言うと冷泉院は源氏の子ですから桐壷帝の孫(桐壷帝の血が1/8入っている)、薫は女三の宮の子、朱雀帝の孫、桐壷帝のひ孫(桐壷帝の血が1/16入っている)になります。まあここまでくれば血縁関係とは言わないでしょうね)

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