幻(7・8・9) 明石の君と語る

p298-307
7.明石の君と語るも心慰まず、さびしく帰る
 〈p301 夕暮の霞がほの暗くぼんやりとたちこめて、〉

 ①女三の宮に興ざめしてそのまま冬の町明石の君の所へ回る。
  久しうさしものぞきたまはぬに、おぼえなきをりなればうち驚かるれど、さまようけはひ心にくくもてつけて、なほこそ人にはまさりたれと見たまふ
  →不意の来訪に驚くがスマートに応対する明石の君、いつもながらできた人である。

 ②またかうざまにあらでこそ、ゆゑよしをももてなしたまへりしかと思しくらべらるるに、面影に恋しう、悲しさのみまされば、、
  →明石の君はよかったが紫の上は特別だった、、、この評価もついに変わらない。

 ③出家もできずに自分が情けないと自嘲気味に語る源氏に明石の君はピシャっと言葉を返す。
  、、なほしばし思しのどめさせたまひて、宮たちなどもおとなびさせたまひ、まことに動きなかるべき御ありさまに、見たてまつりなさせたまはむまでは、乱れなくはべらんこそ、心やすくもうれしくもはべるべけれ」
  →若宮は源氏の孫であると同時に明石の君の孫。「あなた、私の孫を放って出家するなんて許さないわよ」って気持ちだったのではなかろうか。

 ④源氏 「故后の宮の崩れたまへりし春なむ、花の色を見ても、まことに『心あらば』とおぼえし。、、、」
  →藤壷とのことを述懐する。チト危険だが、藤壷に触れずに回想場面は終われない。

 ⑤明石の君と紫の上の関係
  、、うしろやすき方にはうち頼むべく、思ひかはしたまひながら、またさりとてひたぶるにはたうちとけず、ゆゑありてもてなしたまへりし心おきてを、人はさしも見知らざりきかし
  →二人の絶妙な関係も回想しておかねばならない。
  →増長せず分に徹して実を取る明石の君、嫉妬をおさえ源氏の第一の君を貫いた紫の上。
  
 ⑥紫の上と明石の君が歌を交したのは紫の上死の直前一回のみ (御法2.p242)
  紫の上 惜しからぬこの身ながらもかぎりとて薪尽きなんことの悲しさ
  明石の君 薪こる思ひは今日をはじめにてこの世にねがふ法ぞはるけき

 ⑦明石の君の所へはもはや泊らない。
  →もう性愛方面は枯れてしまったのであろうか。

8.花散里よりの夏衣を見、世をはかなむ
 〈p306 四月になると、花散里の君から、〉

 ①四月一日 衣更の日
  源氏の衣更は花散里の役目。登場はしないが装束が届き歌を交す。
  →花散里、最後の登場場面、短いながらチャンと書かれています。

9.祭の日、中将の君にほのかな愛情を覚える
 〈p307 賀茂の祭の日には、源氏の院はほんとうに所在なくて、〉

 ①4月 賀茂神社の葵祭
  葵祭は源氏物語には欠かせないイベント、四月の叙述には必ずと言っていいほど葵祭のことが述べられる。
  →葵の巻の車争いが最重要、そして柏木が女三の宮を襲ったのが葵祭の前日

 ②中将の君と昔を回想する。
  紫の上の女房、葵の巻で足をさすらせる場面がある(葵26.p92)
  (御方に渡りたまひて、中将の君といふに、御足などまゐりすさびて大殿籠りぬ)

 ③ここでは添い寝、共寝したのであろうか。 

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4 Responses to 幻(7・8・9) 明石の君と語る

  1. 式部 のコメント:

      源氏の系統は夕霧の子孫と明石の君の子孫だけであり(冷泉院関係は別)、控えめにしていても明石の君の力は実際おおきいものがあったことでしょうね。
     中宮の母、東宮の祖母でありながら、ずっと紫の上に一歩も二歩もへりくだりながら着々と地歩を築いていった感じです。
     いつも冷静に自分を見つめることのできた賢い女性ですよね。
     この時代の受領階級の娘の中には有能な女性たちが多いですが、宮廷女房文化の担い手でもあり、身分的には上流階級に対する劣等感はあるものの、女房としての仕事や個別の才能に誇りをもち、それを花開かせました。
     それはとても素晴らしいことだと思います。
     上流貴族や宮家の妻にはなれなくとも、存分に生きる場所があって良かったです。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      源氏物語では受領階級の娘明石の君がその才能・才覚と父母の後押しで見事に国母(明石の女御)の母に上りつめる訳ですがこれは作者の想いであるとともに当時の時代意識に基づくものだと思います。

      おっしゃる通りこの時代の受領クラスの娘たちの優秀ぶり・活躍はすごいですよね。
      百人一首No53道綱の母からNo62清少納言まで(No55公任を除き)寛弘の女房たちのラインアップは日本文学史上に燦然と輝いていると思います。

      私が取分けすごいと思うのは(何回も書いてますが)No54 儀同三司の母です。受領階級高階成忠の娘、和漢の教養に通じた才媛ぶりが見込まれて上流貴族中関白藤原道隆の正妻になり娘は一条帝の中宮定子になる。一条帝も母譲りで教養の高い中宮定子をこよなく愛した。。。
       
      中関白家が道長によって没落させられたので定子は国母にはなれなかったが、源氏の明石物語によく似ていると思います。

       明石の入道 - 高階成忠
       明石の君  - 儀同三司母(高階貴子)
       源氏     - 中関白藤原道隆 
       明石の姫君 - 中宮定子
       今上帝    - 一条帝

      という図式でしょうか。いつの世も優れた女性(男性も)はあらまほしいものです。

  2. 青玉 のコメント:

    相変わらずいつまでもウジウジ女々しい源氏にいささかうんざりです。
    さすが賢明な明石の君、きっぱりと釘をさしています。
    源氏、このままでは愛想を尽かされかねません。
    花散里、出番は少ないけどきちんと存在感を示していますね。
    紫の上ゆかりの中将の君で所在の無さをはたして紛らわせるのでしょうか?
    気持ちはわかりますがこうなると男性って(源氏にして)情けないものだな~と思ってしまいます。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      光源氏の物語も最終局面、源氏ゆかりの人々最後の登場場面が続きます。紫の上を追悼し出家の決意を固める源氏に周りの人々も「ああ、源氏さまの世は終わったなぁ」と感じたことでしょう。読者も源氏同様過去を振り返り色々あった昔を懐かしく思い出す。さながら映画の追想場面であります。

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