柏木 死ぬる日を罪むくいなど言ふきはの涙に似ざる火のしづくおつ(与謝野晶子)
朱雀院の五十の賀宴をG47年早々に行うべく「若菜下」と名付けられた前帖だが紫の上が発病しその隙に柏木事件が起こり六条院は一気に黒い雲に覆われる。五十の賀宴は重苦しい雰囲気の中、年末にやっと行われたが事件の張本人柏木は源氏に睨まれ心因性全身不全に陥っている。
p218 – 220
1.柏木、衰弱のなかで感懐し近づく死を思う
〈寂聴訳 巻七 p10 柏木の衛門の督は、こうしてずっと同じような御病状で、〉
①明けてG48年、柏木は依然立ち上がれない。
②柏木は病床で自分の人生についてあれこれ思いめぐらす。
・事件を起こし源氏に睨まれ死ぬしかないのであろうか。
・何も知らない両親に先立ち死ぬ親不孝は辛い。
・死ねばあの人もあはれと思ってくれるだろう。
・源氏も許してくれるだろう。
・・・・でも死にたくない、、、、等々朦朧と思いあぐんだのであろう。
③柏木の心内語に引歌多数登場する。私のレベルでは難解である。
・なべての世の中すさまじう思ひなりて、
おほかたの我が身ひとつの憂きからになべての世をも恨みつるかな(紀貫之)
・野山にもあくがれむ道の重き絆なるべくおぼえしかば、
いづくにか世をば厭はむ心こそ野にも山にもまどふべらなれ(素性法師)
世の憂きめ見えぬ山路へ入らむには思ふ人こそほだしなりけれ(物部吉名)
・誰も千歳の松ならぬ世は、つひにとまるべきにもあらぬを、
憂くも世に思ふ心にかなはぬか誰も千年の松ならなくに(古今集)
・一つ思ひに燃えぬるしるしにはせめ、
夏虫の身をいたづらになすこともひとつ思ひによりてなりけり(古今集)
病床で独り悩む柏木、原因は自分には分かっているが他人には明かせない。あはれ、、、であります。
人は死を前にして何を思うのでしょう。
柏木はすでに自分の死を悟っていたのでしょうか。
前途有望の若者がこの若さで恋ゆえに死んで行くのは本望でしょうか。
口惜しさ 後悔 未練 絶望 許し 期待 心は幾重にも乱れたことでしょう。
もう死んでしまいたい、いやいや死にたくない もっと生きたい!!
私もいろいろ考えてみましたが本心はどうありたかったのでしょうね。
この段 冒頭から人生の無常感伝わる場面です。
暗雲立ち込め重いですね。
ありがとうございます。柏木の心内をよく解説いただいています。
1.こういうのって人に打ち明けてアドバイスをもらうとか対処してもらうとかできないから大変ですよね。夕霧にでも洗いざらい話しておけばよかったのに(後で何故そうしなかったのか、、、なんて出てきますが)。
2.なべての世の中すさまじう思ひなりて、後の世の行ひに本意深くすすみにしを、
柏木に出家の意志があった(脚注14)とありますがここで西行のことを思い出しました。西行が出家したのは1140年23才の時。西行は源氏物語を読んで柏木のことを知っていたのでしょうか。懸想の相手は臣下に嫁いだ皇女(女三の宮)vs上皇(鳥羽院)の中宮(待賢門院璋子)、、、。片や物語片や憶測とはいえ面白いですね。