p129 – 142
27.柏木と女三の宮、それぞれ罪におののく
〈p246 柏木の衛門の督は、そこから女三の宮のお邸にはいらっしゃらず、〉
①激情の一夜が明けて柏木は妻(女二の宮)の所へ戻らず自邸(頭中の二条邸)に帰る。
元々妻に満足できず女三の宮に突進した柏木、妻の所へ帰る気持ちになれない。
部屋に引きこもり自責の念に苛まされる。
→興奮状態から覚めてみるとやったことの大きさにおののく。
→コトに及ぶまでは破滅をも辞さないが終わってしまうと身の破滅を恐れる。
②しかいちじるき罪には当たらずとも、この院に目を側められたてまつらむことは、いと恐ろしく恥づかしくおぼゆ。
→源氏が恐い。天皇に匹敵する源氏の偉大さ尊大さ。
③一方の女三の宮、ショックで病のように見える。あわてて源氏が訪れる。源氏は紫の上にかまいきりで女三の宮を疎かにしていることが原因と思い、言い訳しなぐさめる。
→源氏の言葉はごく自然である。
④柏木、女二の宮邸に戻ったが宮はなおざりにして自室に閉じこもる。
→外界は葵祭りで賑やか華やか。柏木は黙して内にこもる。
⑤柏木の女二の宮への感情
さすがにあてになまめかしけれど、同じくは、いま一際及ばざりける宿世よと、なほおぼゆ。
もろかづら落葉をなににひろひけむ名は睦ましきかざしなれども
→柏木の心内だけだが実に失礼な歌。この歌を以て女二の宮を「落葉の君」と呼称する向きもあるが私は女二の宮で通します。
→でもこれだけ簡潔に女二の宮のことを描写する紫式部の筆致はさすがです。
28.紫の上危篤、六条御息所の死霊出現する
〈p251 源氏の院は、ごくまれにしか六条の院に〉
①源氏が女三の宮のところ(六条院)に居るとき紫の上「絶え入りたまひぬ」の一報が入る。
→またもや「しまった!」と胸がつぶれたことだろう。六条院から二条院まで約2キロ、長く長く感じられたのではないか。
②御修法どもの壇こぼち、僧なども、さるべきかぎりこそまかだね、ほろほろと騒ぐを見たまふに、
→この記述を丸谷才一は源氏物語のディテール中ベスト10に入ると激賞している。
→普通の人ならこりゃあもうダメだなと思うところ。
③源氏「さりとも物の怪のするこそあらめ。いと、かく、ひたぶるにな騒ぎそ」
→さすが源氏、冷静である。夕顔・葵の上、、数々の死亡場面に直面してきている。
④頭よりまことに黒煙をたてて、いみじき心を起こして加持したてまつる。
→懸命に仏に祈る。懸命の様がよく分かる。
⑤物の怪の登場。六条御息所の死霊。まだ成仏できていない。
「人はみな去りぬ。院一ところの御耳に聞こえむ。、、、、、」
→この物の怪の言葉はすごく分かりやすく説得力がある。
⑥物の怪「中宮の御琴にても、いとうれしくかたじけなしとなむ、天翔りても見たてまつれど、道異になりぬれば、子の上までも深くおぼえぬにやあらん、、、、、、」
→子ども秋好中宮のことはもう未練はないが私を裏切った貴方は未だに恨めしい。
→女性の執念たるやかくまでもか。
⑦物の怪(六条御息所)の言葉は源氏の心に一々ズシンと響いたことだろう。
→紫の上に物の怪を憑りつかせる。この進め方もアッパレじゃないでしょうか。
事が終わってみれば現実が待っており柏木 女三の宮共に源氏を恐れる・・・
冷静になって初めてことの重大さに 恐れおののく、こんなことは初めから解っていること。
物語ゆえの面白さをついつい忘れてしまいそうです。
事実を知らぬ源氏、女三の宮と紫の上の元を右往左往している様子・・・
紫の上の危篤場面ではまたもや物の怪の登場。
あたかも物の怪が一人の魂をもった人物のように上手く使われているのに感心します。
またその効果は抜群ですね。
清々爺さん同様、紫式部、アッパレです。
若菜下、息を飲むような場面が次々、読者も緊張感でいっぱいです。
ありがとうございます。読みごたえのある場面が続きますね。
1.紫の上に続いて女三の宮までが病気に、、、、。源氏は「なんでこんなことに!」と驚き「紫の上のことがあって、、、」と言い訳する。今まで源氏が知らないことなど物語上なかったのにここでは源氏の知らない事態が起こり右往左往している!スーパーヒーローにはあるまじき滑稽場面です。「これからは光源氏の英雄譚ではありませんよ!」との紫式部の宣言ではないでしょうか。
2.おっしゃる通りここに六条御息所の物の怪を登場させたのはすごいと思います。然も賀茂神社の葵祭りに絡めて。読者は自ずと葵の巻の車争い~葵の上出産~死亡の場面を思い出さされます。六条御息所は第二部までも生きながらえているということでしょう。
物の怪「人はみな去りね。院一ところの御耳に聞こえむ」(柏木28)
物の怪(葵の上)「すこしゆるべたまへや。大将に聞こゆべきことあり」(葵14)
そっくりの表現ですね。