若菜上(19) 朧月夜との15年振りの再会

p102 -117
19.源氏ひそかに二条宮を訪れ朧月夜に逢う
 〈p75 今はいよいよこれまでと、〉

 さてここで大変な話が挿入される。あの朧月夜の登場である。
 ①朧月夜はずっと朱雀院の寵愛を受けていっしょに暮らしてきた。朱雀院が西山に移ったので昔の実家、あの右大臣邸へ戻る。
  →源氏が藤の宴で朧月夜に再び逢った所(花宴)。そして密会を右大臣に見つけられた所(賢木)。

 ②源氏はそれを知って早速に行動を起こす。
 今一たびあひ見て、その世のことも聞こえまほしくのみ思しわたるを、
  →17段末で紫の上へのひたぶるの愛を再認識した源氏、、ああそれなのに。病気は治らない。

  百人一首No.56 和泉式部(情熱歌人の歌が引用される)
  あらざらむこの世のほかの思ひ出でにいまひとたびの逢ふこともがな

 ③伝手(女房の兄弟)をたぐって思いを伝える。朧月夜は何を今さらと断る。
  →断られると火がつくのが光の君。昔の情熱が甦る。

 ④東の院にものする常陸の君の、日ごろわづらひて久しくなりけるを、
  →バレバレの口実。末摘花も病気にされてしまう。いやはや。
  
  姫宮の御事の後は、何ごとも、いと過ぎぬる方のやうにはあらず、すこし隔つる心添ひて、見知らぬやうにておはす
  →もう昔の紫の上ではない。心が離れはじめている。
 
 ⑤そして二条の宮行きを決行する。
  、、、とわりなく聞こえたまへば、いたく嘆く嘆くゐざり出でたまへり。さればよ、なほけ近さは、とかつ思さる
  →源氏も朧月夜も変っていない。強引な源氏、拒みきれない朧月夜。

 ⑥え心強くももてなしたまはず。なほらうらうじく、若う、なつかしくて、ひとかたならぬ世のつつましさをもあはれをも、思ひ乱れて、嘆きがちにてものしたまふ気色など、今はじめたらむよりもめづらしくあはれにて、明けゆくも口惜しくて、出でたまはむ空もなし。 名場面

  →名場面、名調子。読者は様々に情交場面を思い描いたのではないか。
  →朧月夜と初めて情を交したのはG20年2月(花宴)それから二人は密会を重ねついに見つかり弘徽殿大后を激怒させたのがG25年夏の雷の夜(賢木)。15年振りの再会である。

  →寝所は15年前雷の夜と同じかもしれません。源氏には見つかった時の右大臣の早口が甦ったことでしょう。「賢木」33段読み返してはいかがでしょう。
  
 ⑦中納言の君 さる方にてもなどか見たてまつり過ぐしたまはざらむ
  →源氏も朧月夜を妻にしておれば人生変わっていたのではなかろうか。

 ⑧源氏 沈みしも忘れぬものをこりずまに身もなげつべき宿のふぢ波
  朧月夜 身をなげむふちもまことのふちならでかけじやさらにこりずまの波
  →互いに愛しながら結ばれなかった二人の切ない歌ではなかろうか。

 ⑩六条院、紫の上の所へ帰宅
  いみじく忍びたまへる御寝くたれのさまを待ち受けて
  →これはいけない。キチンと身なりを整えて颯爽と帰らなくっちゃ。

 ⑪朧月夜のことを紫の上に白状してしまう源氏。さすがに涙ぐむ紫の上。
  →これは決定的ではなかろうか。女三の宮のことは何とか耐えようと必死の紫の上も朧月夜とよりを戻したと聞かされてはぶっちぎれたのではなかろうか。
  →女三の宮のことでたまったストレスを解消しに出かけたのかも知れないが、そりゃあマズイでしょうよ。源氏さん!

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4 Responses to 若菜上(19) 朧月夜との15年振りの再会

  1. 青玉 のコメント:

    朧月夜ですか、須磨流罪の原因になった情熱的な女君ですね。
    あれから15年ですか、月日の流れを感じます。
    ここで登場させるとは紫式部も意外性を突きます。

    いかにも朱雀院の留守をねらったようです。
    最早これは病気としかいいようがないです。病名をつけるとすれば狂恋病?
    拒み切れない朧月夜、15年ぶりの逢瀬に二人とも我を忘れて燃えあがったのでしょう。
    明けゆくも口惜しくて、出でたまはむ空もなし。 未練たっぷりですね。

    紫の上への口実はもう通用しません。
    ダブルパンチをくらった紫の上、この亀裂は埋められるのでしょうか?

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      私はこの段(朧月夜との再会)を最初に読んだときすごく興奮しました。源氏の相変わらずの強引さ、それに結局は応えてしまう朧月夜の奔放さ、15年ぶりの官能場面にすごいなあと思ったものです。何度も読むうちにもっと深いものがあるなと思うようになりました。

      源氏と朧月夜の話は一編の長編小説にもなり得るんじゃないでしょうか。東宮(朱雀帝)に入内の予定が源氏との南殿の桜宴での出会い契り、右大臣邸の藤の宴での再会で予定が狂い、源氏に嫁ぐ話もあったが姉弘徽殿大后が反対、その後密会を続け露見、朱雀帝は源氏との関係を知りながら尚侍として寵愛、そして朱雀院が出家して里帰りしている所に源氏が襲来、また密会を重ね、終いには源氏を見捨てて出家、、、。波乱万丈これに勝るものなしじゃないでしょうか。

      朧月夜を巡る朱雀帝と源氏の三角関係、源氏・朧月夜の関係に対する紫の上の想いは考えるほど深いものがあると思います。

      投稿にも書きましたが紫の上がはっきりと源氏を見限ったのは朧月夜と縁りを戻したのを聞かされたこの夜だと思っています。

      • 式部 のコメント:

         現代人の考え方からすると、源氏と朧月夜とのカップルが一番自然で抵抗なく受け入れることができます。
         いろんな意味で相性も良かったように思います。無理がないですよね。
         ただ早い時期に二人を正式に結婚させてしまうと物語の面白みは薄れてしまいますよね。
         女主人公を誰にするかで、ストーリー展開は全く違ったものになったでしょうね。現代の作家だったら、清々爺さんの言うように、もう一つ物語を書いたでしょうね。二つ三つは書けるかな?
         この時代、いや現代も男女関係をすっぱり見限るのは女性だったのでしょうか? もちろん性差でなくその人によるのでしょうが・・・

        • 清々爺 のコメント:

          おっしゃる通り源氏と朧月夜のカップルは互いに相性がよくて現代的なカップルだと思います(他は総じて現代では考えられない「平安カップル」ですね)。

          お互い好きだったけど結ばれず女はライバルと結婚、それでも忘れられず文通だけは続け女の夫が不能になって男は焼けぼっくいに火をつけに行く。燃え上がる炎、、、そして結末は! トレンデイドラマにあってもよさそうじゃないですかね。

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