若菜上 たちまちに知らぬ花さくおぼつかな天よりこしをうたがはねども 与謝野晶子
講読2年目いよいよ第二部に入ります。「源氏は若菜から読めばいい」(折口信夫) 専門家が挙って絶賛する若菜上下、どんな物語が待っているのか楽しみです。
p14 – 20
1.朱雀院出家を志し、女三の宮の前途を憂う
〈寂聴訳巻六 p10 朱雀院は、先日の六条の院への行幸があったあたりから、〉
①朱雀院の帝、ありし行幸の後、そのころほひより、例ならずなやみわたらせたまふ
→この冒頭の一文は第二部の重苦しさを如実に語っている。
②藤裏葉の六条院行幸がG39年10月。この時皆華やかに歌を詠み合ったのに朱雀院の歌だけは物悲しげであった。
朱雀院 秋をへて時雨ふりぬる里人もかかる紅葉のをりをこそ見ね
→この頃から体調思わしくなかったのであろう。
→朱雀院は元々病弱、ひ弱いイメージ。目も患っていた。
③朱雀院の母弘徽殿大后は既に亡くなっており(G36~38年何れかの9月)、この点からも朱雀院は気弱になっていたのだろう。
→脚注通り朱雀院は自分で判断していかねばならなくなっている。
④ここで女三の宮の出自が語られる。しっかりつかんでおきましょう。
朱雀院の皇子たち
春宮=母承香殿女御
女一の宮・女二の宮・女四の宮=母不詳
女三の宮=母藤壷女御(式部卿宮の妹!)
⑤藤壷女御=父先帝、母更衣(身分低かった)
朱雀院の後宮では春宮の母承香殿女御と尚侍である朧月夜(弘徽殿大后の妹)が重んじられた。藤壷女御は朱雀院には愛されたのだが弘徽殿大后には苛められたのであろうか。そして女三の宮を残して死んでしまう。
→藤壷女御&その母更衣ともに源氏の母桐壷更衣を思わせる。
2.朱雀院、女三の宮の将来を東宮に依頼する
〈p12 東宮は、朱雀院がそうした御病気の上に、〉
①春宮のこと。母承香殿女御は朱雀院のお気に入りではなかったが(一番のお気に入りは朧月夜)何せ春宮の母、重視せざるを得ない。
春宮には髭黒と源氏(明石の姫君が入内している)が後見についており安泰。
→この春宮は心身ともに健全で将来的にも順調に帝位についていく。
②朱雀院は見舞に来た春宮に女三の宮のことを依頼する。
他の皇女たちには後ろ盾がついている。
③同席している承香殿女御は女三の宮のことをよく思わない。
→藤壷女御と帝寵争いをし劣勢だったのだから仕方なかろう。
④朱雀院の後宮での后たちの競争の有様を語りその結果として後見もなく一人残された可哀そうな女三の宮を読者の頭に植え付ける。
→新しい舞台の見事な設定だと思います。
前帖の華やかな場面から一転して何やら暗雲立ち込めたような重苦しさ。
これは一体どうしたことでしょう。
朱雀院の出家を阻むものはひとえに女三宮。
心残りは母もなく後見人もいない宮の今後。
院の屈託から始まる若菜上。
栄光から悲劇を暗示させますね。
いきなり前帖との対比が強烈な印象として読者をとらえます。
見事な展開ですね。
ありがとうございます。
第二部の冒頭突然唐突に女三の宮が登場しその生い立ちが語られる。読者にしてみれば「そんなの聞いてなかったよ!」って感じじゃないでしょうか。朱雀院は物語中ずっと陰気な暗いイメージの人物だったので、その朱雀院が心配している皇女と聞くとそれだけで「こりゃあ大変だぞ!」ってピンと来たことでしょう。
新しい物語の幕開けに読者に「不安なる空気」を感じさせる見事な語り口ですね。藤壷女御の早死には第一部冒頭の桐壷更衣の無念死に照応していると言えるのではないでしょうか。