梅枝 天地に春新しく来たりけり光源氏のみむすめのため(与謝野晶子)
玉鬘十帖(玉鬘~真木柱)を終えてメインストーリーの「紫のゆかり」&「明石物語」へと戻ります。一気に主人公が変わり玉鬘は姿を見せなくなります。源氏が昇りつめる第一部のフィナーレももうすぐです。
p186 – 196
1.明石の姫君の裳着と、六条院の薫物合せ
〈寂聴訳巻五 p256 明石の姫君の御裳着のお支度に、〉
①G39年2月 六条院
2月は梅→匂→香→薫物合せという発想だろうか。
②いきなり主人公が変わり明石の姫君(11才)の裳着の儀のこととなる。
春宮(13才)も2月に元服する。即ち妃を迎えることとなる。
③明石の姫君の入内に向けての諸準備
→源氏の切り札である明石の姫君。やがては国母へ。源氏総力を挙げての嫁入り支度に。
④嫁入り道具に香道具&薫物を持たせる。そのために内輪で薫物合せを行う。
旧来からのもの新規のものありったけを出して来ていいものを選ぶ。
→綾・緋金錦(高麗人より)など古いものの方を尊ぶ(尚古思想)。
⑤薫物の調合は秘伝が多い。源氏も紫の上も別々の所で秘密裡に調合する、
→源氏と紫の上が競い合う。面白い。(久々に紫の上が登場する)
2.御方々の薫物を試み、兵部卿宮判定する
〈p258 二月の十日、雨が少し降り、〉
①2月10日雨まじりの日に薫物合せ(薫物は空気の湿っている方がよくにおう)
②源氏の異母弟蛍兵部卿宮が判者として参上する。
→風流事の判定者となるといつもこの人。聖代の風流人・教養人の象徴
③前斎院(朝顔の姫君) 源氏が依頼した。風流事につけては交流は続けているのだろう。
→六条御息所亡き後、この人が最高の教養を身につけた女性なのだろう。源氏と同年齢なら39才。
朝顔 花の香は散りにし枝にとまらねどうつらむ袖にあさくしまめや 代表歌
→自分を卑下して明石の姫君を讃えている。床しいですね。
④右近の陣の御溝水のほとりになずらへて、西の渡殿の下より出づる、汀近う埋ませたまへるを、
→湿気のある土中に薫物を埋めて保存、においが深くなる(脚注13)。香は深いですね。
⑤惟光の宰相の子の兵衛尉掘りてまゐれり
→惟光は出世して宰相になっている。息子が源氏に仕えているのであろう。
⑥同じうこそは、いづくにも散りつつひろごるべかめるを、人々の心々に合はせたまへる、深さ浅さを嗅ぎ合はせたまへるに、いと興あること多かり。
→薫物論である。
さて、源氏の女君たちからの出品作の紹介(実際どんなものかさっぱり分かりませんが、、、)
⑦朝顔の姫君 黒方(冬の香)
源氏 侍従(秋の香)
紫の上 梅花(春の香)
花散里 荷葉(夏の香) 謙虚に控えめに
明石の君 薫衣香の内の百歩の方(冬の香は朝顔に取られてしまったのでやむなく)
⑧蛍兵部卿宮も優劣の判定をつけられない。
→源氏「ちゃんと判定してくださいよ!」 ジョークが面白い。
以上香道のことがしっかり書かれています。興味ある人には堪らないところでしょう。というかこの段がベースとなって室町時代の香道に繋がったのではないでしょうか。
[追伸]
香についての参考文献として以前青玉さんから紹介いただいた「伽羅の香」(宮尾登美子・中公文庫)を挙げておきます。またウオームアップ「閑話 源氏香‐52通り」「年立 年表」及びそのコメント欄もご参照ください。
晶子の和歌 天地、(あまつち)と読んだ方がいいのでしょうか?
それとも文字のごとく(てんち)?
紫式部の物語の運び方は心憎いですね。
一転して明石物語へ、初音以来で懐かしく新鮮さを感じさせますものね。
折しも梅の季節を背景に・・・
梅と言えば香、香と言えば薫物、見事な展開です。
薫香は奥が深いですね。そして雅の極みです。
いずれも明石の姫君のための催しで源氏が姫君のために最高のお支度をという気持ちの表れでしょう。
沈の箱に、瑠璃の杯二つ据ゑて、大きにまろがしつつ入れたまへり。心葉、紺瑠璃には五葉の枝、白きには梅を彫りて、同じくひき結びたる糸のさまも、なよびかになまめかしうぞしたまへる。
朝顔の姫君の深い教養を示すところですがこの行、惚れ惚れしました。
昔の高貴な人々は誠に優美ですね。
瑠璃杯、昨年の正倉院の展示を思い出させました。
右近の陣の御溝水のほとりになずらへて、・・・~汀近う埋ませたまへるを
理にかなった方法ですね。
実際普通のただの香にしても乾燥した場所よりも湿度のある所の方が香りはしめやかで深みを感じますものね。
ここを読んですごいな~と思いました。
いづれ劣らぬ調合に蛍兵部卿宮も脱帽の思いでしょうね。
この場面、酔いしれてしまいました。
香道に関する詳細なコメントありがとうございます。すごくよく分かります。
1.晶子の歌の「天地」は「あめつち」ではないでしょうか。単なる感覚ですが。明るくって分かりやすいいい歌ですね。
2.公家も大名も婚礼調度には贅を尽くしたのでしょうね。愛する娘のため、自身の威厳保持のため。それも豪華絢爛だけではなく知的教養を示すものでなくてはならない。そこで「香」を持ってきたのでしょうね。
最高の知的教養と言えば朝顔の姫君と兵部卿宮、これらを登場させ「薫物論」を展開させる。作者に余程自信がなくっちゃできません。ただただ感心するばかりです。
そうですね。感覚的にも言葉の響きから言っても「あめつち」がいいですね。
声に出して読んでみたら本当に明石の姫君を想像させるわかりやすい歌ですね。
又、ウオームアップ「閑話 源氏香‐52通り」「年立 年表」も振り返ってみました。
とても懐かしかったです。コメントも賑わっていて楽しかったです。
もう一年以上も前になるのですよね。思えば遠くまで来たものです。
来年の今頃はどの辺りになるのかしら?終わりに近づいているはずですね。
来年の今頃は最終月で「手習」と「夢浮橋」の予定です。
因みに10月から来年3月までの予定を「進捗予定表」に更新しておきましたので参考にしてください。
→あくまで予定です。これを目指して頑張りたいと思っています。