野分(9・10) 夕霧、二人の女君に消息

p222 – 228
9.夕霧、明石の姫君を訪れ、その姿を見る
 〈p113 夕霧の中将は、源氏の君のお供をして、〉

 ①明石の姫君8才。夕霧は兄妹なので身近に入っていける。
 
 ②明石の姫君は野分が恐ろしく紫の上の所へ行っている(紫の上が心配して「いっしょに寝ましょう」と連れていったのであろう)。普段は乳母(宣旨の娘)といっしょにいる。

 ③夕霧は紙と硯を所望して二人の女君(雲居雁と惟光の娘)に消息を書く。
  →北の殿のおぼえを思ふに、すこしなのめなる心地して、
   この部分分かりにくい。夕霧は普段明石の姫君に遠慮している感じだが、夕霧は源氏の正妻葵の上の嫡男。今は紫の上の養女になっているとはいえ明石の姫君(&その周りの女房達)には何ら遠慮することないと思うのですが。。

 ④夕霧→雲居雁
  風さわぎむら雲まがふ夕べにもわするる間なく忘られぬ君 代表歌
  →脚注によるとこの歌ゆとりがないとかケチをつけられているが、素直に読めば野分の朝「大丈夫ですか。いつも忘れてませんよ」ということで真面目な夕霧らしくていいと思うのですが。

 ⑤惟光の娘への二通目は省略されている。

 ⑥明石の姫君が戻ってくる。夕霧は先の二人(紫の上・玉鬘)と比較して藤にたとえる。
  かの見つるさきざきの、桜、山吹といはば、これは藤の花とやいふべからむ、木高き木より咲きかかりて、風になびきたるにほひは、かくぞあるかし、と思ひよそへらる。

 ⑦かかる人々を、心にまかせて明け暮れ見たてまつらばや
  →野分3p204 と同じ表現

 以上野分の吹き荒れた朝、夕霧は六条院の女君たちを見舞う。夕霧の目で見て夕霧が感じた思いが比較対照的に語られる。紫式部らしい手法だと思います。

10.夕霧、大宮に伺候 大宮、内大臣を語る
 〈p117 夕霧の中将が、大宮のお邸に参上しますと、〉

 ①夕霧はまた三条宮に戻り大宮を見舞う。大宮は静かにお勤めをしている。
  →夕霧の律義さを語り舞台を三条宮に移す。

 ②さすがに息子内大臣(頭中)も見舞に来ている。
  大宮からは雲居雁のことが持ち出されるが内大臣は依怙地である!

 ③女子こそ、よく言はば、持ちはべるまじきものなりけれ。
  →それはないでしょう。ましてや母親の前で。

 ④それなん。見苦しきことになむはべる。いかで御覧ぜさせむ。
  →脚注のように内大臣が大宮に近江の君を引き取ってもらいたいと考えていたのならトンデモナイ間違い。親不孝者め!と思うのですが。。

これにて野分の二日間を描写した「野分」を終わり年末の大原野行幸へと話は移ります。テキストも8冊目に入ります。

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2 Responses to 野分(9・10) 夕霧、二人の女君に消息

  1. 青玉 のコメント:

    「雛の殿」の表現、洒落ていていいですね。いかにも明石の姫君といった感じです。
    このお部屋での夕霧のお歌。
    語り手の言葉では「あやしく定まりて、憎き口つきこそものしたまへ」と批評していますが
    脚注にもあるように刈萱に結ばれた所に深い意味があるようで、若い夕霧の心のうちに秘められた情念をも読みとることはちょっと難しいです。

    紫の上が桜、山吹が玉鬘そして姫君を藤に例えられましたか、いずれ劣らぬ花人たちですね。

    一方大宮の元へ、尼君らしい住まいの佇まいは好感が持てます。
    内大臣いつまでもウジウジと執念深く男らしくないですね。
    昔の頭中もっと好人物だったような?

         野分立ちかいま見ゆるは花のごと
              露の玉とぞ乱れ散るらん

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      1.夕霧 風さわぎむら雲まがふ夕べにもわするる間なく忘られぬ君
        この歌、深く読み解いていただきました。感謝です。

       「吹き乱れたる刈萱」がポイントなんですね。でも女房どもでも分からなかった歌意を雲居雁が分かったのでしょうか(勿論分かったのでしょう)。作者のコメントも「あやしく定まりて、憎き口つきこそものしたまへ」じゃなくて「何とも意味深長に書かれたものです」程度の方がいいと思いますが。。

      2.桜・藤・山吹は六条院春の町に植えられた春の花木(少女p154)。作者は当初からこの春の町に住む三人の女君を桜・藤・山吹で表現しようと決めていたのでしょうね。見事なものです。

      3.内大臣は「いつまでもウジウジと執念深く男らしくない」ですか。成程。この性格の代表は宇治十帖の薫ですが思えば内大臣は薫の祖父ですもんね。繋がってますねぇ。恐ろしいものです。

      4.野分の歌、激しい歌じゃないですか。夕霧がこの歌を「吹き乱れたる刈萱」につけて紫の上に贈り源氏がそれを見つけたら、、、、考えるだけでも恐ろしくなります。すごい歌をありがとうございました。

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