「篝火」大きなるまゆみのもとに美しくかがり火もえて涼風ぞ吹く(与謝野晶子)
G36年6月の「常夏」に続く7月(初秋)
p182 – 188
1.近江の君の噂を聞き、源氏批評する
〈寂聴訳巻五 p80 この頃、世間の人々が噂の種にして、〉
①玉鬘の素晴らしさを引き出すために近江の君のことが語られる。
源氏は近江の君に対する内大臣の処置の拙さを批判する。
→養女とした玉鬘に不穏な感情を抱く源氏も誉められたものではないが。。
源氏 よろづのこと、もてなしがらにこそ、なだらかなるものなめれ
→これはその通り。源氏の方が人間ができている。
②右近が今や玉鬘の教育係として仕えている。
→源氏のことをよく知っている右近だけに源氏もやりやすい面とやりにくい面があったのではないか。
2.初秋、源氏と玉鬘、篝火の歌を詠み交す
〈p81 秋になりました。〉
①7月5、6日 七夕の前日 源氏は玉鬘を訪れる。
→夏から秋に季節が移ったということが叙述される。
初風涼しく吹き出でて、背子が衣もうらさびしき心地したまふに、
荻の音もやうやうあはれなるほどになりにけり
②御琴を枕にて、もろともに添ひ臥したまへり 名場面
→実際に琴を枕にするわけではなかろうが何とも言い得て妙である。
③舞台装置(照明)として篝火が登場、明るすぎず暗すぎず玉鬘を浮かびださせる。
御髪の手当りなど、いと冷やかにあてはかなる心地して、、
→やさしく髪を撫でる、絵になりますねぇ。
④源氏 篝火にたちそう恋の煙こそ世には絶えせぬほのほなりけれ 代表歌
玉鬘 行く方なき空に消ちてよ篝火のたよりにたぐふ煙とならば
→源氏の歌は暑苦しいが玉鬘の返歌は機智に富んでおり頭の良さをうかがわせる。
⑤東の対(花散里のところ)に夕霧を訪ねて柏木と弁少将が来ている。
→当然玉鬘がお目当て、目立つように笛やら琴やらで賑やかにやっている。
3.玉鬘、兄弟たちの奏楽をはからずも聞く
〈p84 お使いをやられて、「今、こちらにいます。〉
①風の音秋になりにけり
→秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどかれぬる 藤原敏行
[全くの余談]
藤原敏行といえば上記の歌だと思うが百人一首では別の歌が採られている。
No.18 住の江の岸による浪よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ
定家は住吉大社、難波潟(No.19)、澪標(No.20)と続けさせるために敢えてそうしたのではなかろうか。
②源中将(夕霧) vs 頭中将(柏木)
→20年前の源氏vs頭中を彷彿させる。
③源氏 御簾の内に、物の音聞き分く人ものしたまふらんかし
→お目当ての玉鬘が聴いてますよ、、、、挑発している。
→柏木は緊張のあまり声も出ない。一途純情な柏木である。
以上一幕だけの短編であるが初秋の風情あふれるいい巻ではなかろうか。