薄雲(4・5・6) 大堰の子別れ 明石の姫君二条院へ 

p173 – 182
4.明石の君、姫君を手放すことを決心する 
 〈p14 思慮深い人に判断してもらっても、〉

 ①尼君の説得、周りの人たちの意見で明石の君も娘を手放さざるを得ないなあと心が傾く。

 ②源氏→明石の君 「御袴着のこと、いかやうにか」
  源氏は娘引取りの心は決めているが決して事を急がない。明石の君の心に沿って徐々に進めて行く。
  →この辺実に巧み。事を急いて強引に進めれば明石の君の心を傷つけてしまう。
 
③明石の君と乳母(宣旨の娘)との対話
  二人は三年に亘り同志として明石の姫君を養育した。お互いに心が通い合い信頼し合っていたのであろう。乳母の教養の高さ、その乳母をリクルートして明石に送り込んだ源氏の先見の明。乳母も源氏の期待に応え嬉しかったであろう。

5.雪の日 明石の君、乳母と和歌を唱和する
 〈p16 雪や霰が降る日が多くなり、〉

 ①大堰の子別れの朝 寂しげなる冬の情景の描写→源氏物語中でも象徴的表現の代表

 ②明石の君はこの段の表現を反映して「冬の御方」と呼ばれる。六条院の冬の屋敷へ。
  明石の君が極上の貴婦人に劣らぬ様子ながら出自が低いということが繰り返し語られる。

 ③明石の君と乳母の和歌の贈答 実に切ない。

6.明石の姫君を二条院に迎える 袴着のこと 
 〈p18 この雪が少し解けた頃に、〉

 大堰の子別れ、名場面です。
 ①源氏が姫君を引きとりに来る。明石の君は覚悟はしているものの暗い気持ちになる。

 ②袖をとらへて、「乗りたまへ」と引くもいみじうおぼえて、
  姫君の無邪気な様子→紫式部は可愛らしい幼女を描くのがお得意

 ③明石の君 末遠き二葉の松にひきわかれいつか木高きかげを見るべき 代表歌
  源氏 生ひそめし根もふかければ武隈の松に小松の千代をならべん
   →橘季通 武隈の松は二木を宮古人いかがととはばみきとこたへむ
   →奥の細道 「武隈の松みせ申せ遅桜」と挙白と云ふものの餞別したりければ、「桜より松は二木を三月越シ」

 ④姫君二条院に到着
  おほかた心やすくをかしき心ざまなれば 素直に育てられた姫君

 ⑤子ども好きな紫の上、可愛らしい姫君を抱いて心底から愛おしく思ったのであろう。

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2 Responses to 薄雲(4・5・6) 大堰の子別れ 明石の姫君二条院へ 

  1. 青玉 のコメント:

    源氏の巧妙、慎重な(心を尽くした)話しの進め方、(強いては事を仕損じる)
    明石の君も姫君を手放さなさざるを得ない・・・
    放ちきこえむことは、なほいとあはれにおぼゆれど、君の御ためによかるべきことをこそはと念ず

    常よりもこの君を撫でつくろひつつ見ゐたり
    娘を愛おしく想う母親の仕草が胸を打ちます。
    冬の情景描写に加え、慣れ親しんだ乳母との別れの和歌も一層せつなさがつのります。

    いよいよ迎えの日。
    子別れのクライマツクスの場面、涙なしには読めません。
    明石の君の心情、またその思いを察しての源氏の心内、姫君の無邪気な可愛らしさ、どこをとっても泣かせます。
    古歌を引いての歌の贈答
    明石の君の断腸の思い、いたわりと罪の意識の源氏、読者にもひしひしと伝わります。
    この段終始、明石の君の悲痛な心情に胸打たれますが幼い姫君の無邪気さに救われる思いです。

    • 清々爺 のコメント:

      詳細な読後感想ありがとうございます。一々納得です。

      1.別れには雪が似合いますね。「南部坂雪の別れ」を思い出しました、、(関係ありません)。でも雪は降り止んでいたとは言え大堰から二条院までの道中、大変だったでしょう。源氏はこの日往復したことになりますし。

      2.源氏が幼い姫君を連れ出す場面、若紫を拉致してくる場面と重なります(尤も若紫は10才、明石の姫君は3才ですが)。無邪気な様子、二条院に着いてからの描写そっくりだと思います。

      3.この段、乳母(宣旨の娘)の存在が大きいと思います。明石の君には同志を失う哀しさもあったでしょうが、「あなたが居てくれるから安心だわ」って気持ちだったでしょう。姫も馴れ親しんだ乳母がいっしょに来てくれたので慰められたことでしょう。この乳母をアレンジした源氏の深謀遠慮に敬服です。

       母君の見えぬを求めてらうたげにうちひそみたまへば、乳母召し出でて慰め紛らはしきこえたまふ

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