源氏物語は官能小説か? Yes, of course!
光源氏と数多くの女君の繰り広げる物語、性愛場面がないはずはありません。
さてどんな官能パターンが入っているか、順不同・好き嫌い不問で列挙すると;
義母、人妻、熟女、醜女、男色、幼女拉致、ロリコン、覗き、レイプ、コスプレ、身代わり、、、
まさにポルノ映画の百科事典であります。
平安時代は性倫理も比較的おおらか後宮にも男が入れた。事が起こるのも当然かもしれません。その点中国後宮は宦官制であったし、江戸時代の大奥は男子禁制であったのと大違いです。
ところが源氏物語には性愛場面はあっても性愛描写は一切ありません。多くを語らず読者の想像に委ねる、委ねられた読者の妄想は膨らむばかり、まさに紫式部の思う壺なのでしょうか。
一例のみ挙げますと、幼い時連れ帰り娘として共寝していた若紫を紫の上としてしまう場面、
男君はとく起きたまひて、女君はさらに起きたまはぬ朝あり。
(「葵」の巻③p93) これで何が起こったのか全てを語る、、寂聴さん絶賛の場面であります。
左様に省略やらボカシやらの語り口なのでこのシーンは「事があったのかなかったのか」(源氏読みでは「実事」という)の議論も絶えないところなのです。→(「光る源氏の物語」(大野晋・丸谷才一 中公文庫)が面白い)
私は実事ありのところではテキスト上部にハートマークをつけていました。
源氏物語は官能小説ですがいやらしさ、下品さは全くありません。どんな場合も源氏の君は女性に優しく思いやりがあるスーパーヒーローなのですから。。
ポルノさながらの場面は数多ありますがそれが露骨に表現されていないところが最も好きなところです。
今の世の中ならば犯罪スレスレ、いえ、明らかに逮捕ですよね。
それが文語体で表現すればかくも美文調になり読者の想像力を豊かにする、まさに紫式部の手腕ですよね。
物事はそのものずばり表現するよりも効果的な手段と言うことでしょうか。
男君はとく起きたまひて、女君はさらに起きたまはぬ朝あり。
寂聴さんの訳でもこの朝の場面前後は一番印象に残っている所です。
状況は限りなく際どいものに設定する。しかし描写はボカシて読者の読みに任せる、これこそ官能小説の極意なんでしょうか。
昨年暮、「青黄の宮」氏が著名な友人から聞いたという「人生における45の教訓」なるものを紹介してくれましたが、私はその中の次の文言が一番気にいりました。
The most important sex organ is the brain.
紫式部は先刻ご承知だったのでしょう。。
ブログ作成者の補足コメントです。
貴族女性は夫や父親以外の男性には顔を見られてはならなかった。まるでイスラム社会である。顔を見られる=裸を見られるということだったらしい。当然、ちょっとだけでも見たい男とちょっとだけでも見せてはならない女の攻防が随所に出てくるということになるのです。
源氏物語で「見る」「見し」という言葉が出てくればこれは単に「見た」という以上に「情交する」「情けを交わした」ことを表す場合が多いのです。いやぁすごいですね。
古来、源氏と朝顔の君には情交関係はなかったとするのが通説ですが、私は源氏と朝顔の贈答歌にこの表現があるので、「一度はあった!」と考えているものです。
源氏→朝顔 ⑥P22
「見しをりのつゆわすられぬ朝顔の花のさかりは過ぎやしぬらん」
このくだりに行きましたら(来年5月予定)議論させてください。
もう一つ、文中で男女のことが強調されるような場面になると(ラブシーンだけに限られないが)、突然文中の主語が「男」「女」という生々しい言い方に変わるところが多数出てきます。今は昔ピンク映画でその手の場面になるとカシャッと総天然色に切替わったような感じで笑えます。。
見てもいない、直接声も聴いていない、人柄なんか全然わからない、そんなお姫様を、評判(作為的なものもおそらくあった)だけで恋する男もさぞ大変だったと思う。女性の方は管弦の遊びとか舞楽とか、御簾越しではあっても男性を見る機会はあったのだから。
ほほえましい恋物語をひとつ。「更級日記」の<竹芝寺>のところ。宮中の火たきやの火たく衛士がみかどの御むすめをおぶって武蔵の国へ逃げ帰った話。
これは姫君が御簾をあげ、男も女も見合ったわけで、いいなと思う。
源氏物語ではっきり自分をだしているのは朧月夜かな。
「更級日記」の紹介ありがとうございます。このようにかっさらってもらうこと孝標女の願望も入っているのかもしれませんね。
朧月夜。最近では女君人気ランキングナンバーワンでしょうか。実に艶やかで3つも官能的場面を作ってくれています。最初が花の宴のほろ酔い機嫌で歌を口ずさみながらの登場。次が大胆過ぎる密通露見(賢木)。そして十数年を経て焼けぼっくいに火がついてしまう場面(若菜上)→ここはゾクゾクっときます。
式部さんのコメントで在原業平を思い出しました。
藤原の姫、高子(二条の后)を盗み出し背負って逃げる話です。
追っ手につかまり連れ戻されたそうですが・・・
その時の業平の歌
白玉か何ぞ人の問ひしとき露とこたへて消えなましものを(伊勢物語)
ありがとうございます。
業平と高子の話、生々しいですね。紫式部は伊勢物語に限らず先行する物語のスキャンダラスな話を全部材料としていただいて源氏物語を書いたんでしょうね。それにしてもバラバラな出来事やテーマを矛盾もなく一大長編に紡ぎ上げた手腕には驚く他ありません。
(伊勢物語・在原業平もいいなあと思ってたのですが、源氏を読んで格が違うというかジャンルが違うなあと感じました)