夕顔(15) 再び東山へ

p252 – 261
15.源氏、惟光に案内され、東山におもむく
 〈p209 その日も暮れて、惟光が参上しました。〉

この段も迫力ある場面です。万が一にも生き返るかもしれない夕顔を残して帰ってきたことを後悔し東山に戻ろうとする源氏。無理とは承知で主人の要望に応える惟光。二人の会話が活き活きしてて大好きです。

 ①死んだとなっても二三日は火葬にせず様子をみる。きっと生き返ったこともあったのだろう(紫の上が一度生き返る)。

 ②右近のこと、葬儀の段取りのこと、乳母への口固めなど源氏と惟光の会話がいい。源氏も色んなことによく気が回って大したものだと思う(世間音痴の男ではない。宇治十帖の匂宮とまるで違うところ)。

 ③源氏「便なしと思ふべけれど、いま一たびかの亡骸を見ざらむがいといぶせかるべきを。馬にてものせん」
  惟光「さ思されんはいかがせむ。はやおはしまして、夜更けぬさきに帰らせおはしませ」
  主従の情のこもったやり取りです。

 ④二条院から東山まではけっこう遠い。十七日=立待月(宵闇)、月は出てきたが暗かったのだろう。

 ⑤庶民レベルでの死後の弔いの場面が描かれる。
  そこでの夕顔の亡骸との対面。鬼気に迫るところ。
  (「源氏よ、お前は偉いやっちゃ!」と叫びたくなります)
  (「夕顔がよっぽどよかったのさ」と雑ぜっ返す人もいますが)

 ⑥夕顔の亡骸と別れ二条院に帰る途中の描写もリアル。
  源氏が馬より落ちて落馬する。
  清水寺が出てくる。清水寺=開山は8世紀後半、平安遷都前、観音信仰
  とにかく手助けしてくれる人もいない。惟光と二人で自ら手を合わせ観音さんに助けを求めたのであろう。

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4 Responses to 夕顔(15) 再び東山へ

  1. 式部 のコメント:

      源氏物語54帖をみても庶民レベルの生活のもろもろが描かれることはほとんどありません。この「夕顔」の巻がおそらく唯一庶民の貧しい暮らしのさま、会話、弔い方などが生き生きと描かれている部分でしょうか。
     それがこの巻を一層面白くしている要因だと思います。
     源氏物語はほんの一握りの貴族のお話ですが、(この時代、貴族以外は人間でないような扱い方)現代の読者は錯覚して、自分もその貴族階級のだれかれのような気持ちになったり、特定の登場人物に心入れをしたりするのも面白いですよね。

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。よくぞ言っていただきました。

      夕顔10.の下町の様子、15.の弔いの場面は印象深いし専門家も絶賛しているところですね。宮中やら六条院やらの雲の上の世界とは違った親しみがあるかと思います。

      ご指摘とおり源氏物語は天皇・皇族・一握りの高級貴族のお話で、一般庶民とは全く及びもつかない物語なんですね。私も錯覚して登場人物たちと同じ目線でものを考え感情移入して物語を読んでいることに気づきます。

      でもこの物語が現代にも通じるということは1000年の時を経ても、また社会構造も身分・地位も違っても、男と女、親子兄弟、主従といった人間間の心の有り様は変わらないということなんでしょうね。

  2. 青玉 のコメント:

    死後もなお夕顔に未練を残す源氏、女々しい男はあまり好きではありませんが17歳では無理ないかもね・・・
    右近を励ます源氏自身も頼りなく心細げ、惟光の働きぶりだけが孤軍奮闘まさに忠臣のお手本でしょうか?
    それもこれも自ら手引きした責任ですものね。

    式部さんおっしゃるように私もしょっちゅう錯覚を起こしがちです。
    自身も周辺人物になったように思い入れしてしまうのです。

    雑記
    今日、徳川美術館を訪ねました。国宝 源氏物語絵巻、観てきました。
    柏木(ニ)と早蕨のニ場面が料紙に書かれた詞書と共に展示されました。
    剝落も目立つのですがこの「柏木」は現存する絵巻の中でも特に色鮮やかとのことです。
    物語が書かれてから100年後ぐらいの12世紀頃に描かれたそうですがよくぞこの状態で保存されたものだと感じ入りました。

    他にも源氏物語の世界や源氏と平家の物語などたっぷり見せてくれる今回の展示で清々爺さんや式部さんも観ていただきたかったと思いました。
    徳川美術館の所蔵品は価値や点数からも他に類を見ないほどの内容ではないかと思いました。
    併設されている名古屋市蓬左文庫とあわせての蔵書や和漢の優れた古典など11万点にも及び尾張徳川家に伝えられた大名道具や絵図等、武家文化が解りやすく紹介されています。
    更に徳川園(日本庭園)も素晴らしく見事な紅葉がライトアップ(行燈)され幽玄の世界でした。気が付いたらお月さまが顔を出していました。
         行く秋や 源氏偲びし 絵巻かな

    • 清々爺 のコメント:

      ありがとうございます。

      1.なにがしの院では取り乱して分別もつかず、這う這うの体で逃げるように二条院に帰った源氏がこれでは自分の気がすまないと思い返して東山に赴くこの段すごく好きです。源氏の心の持ち様がよく表れていると思います。物語的には別にこの段はなくてもいいのでしょうが、けっこう長く弔いの様子などが書かれていて貴重だと思います。

      2.徳川美術館行かれたのですね。よかったですね。他にも色々あるようで尾張徳川家はすごいなあと思います。源氏物語絵巻これが全部残っていてくれたらと残念でなりませんが、まあ20場面だけでも残っているからよしとしなければいけませんね。そしてその内15場面が徳川美術館ですものね。是非全部見てください。

      この絵巻、後白河院が作らせたという説もあるようで、根拠のほどはともかく面白いと思います。

       →オマケ 大河の「清盛」、相変わらず怪しげな話ですがこれほど後白河院のことを描いたドラマはかつてなかったのじゃないでしょうか。その点は面白いかも。 

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