紫のゆかり

源氏物語は色々なテーマが重層的に展開しストーリーが作り上げられていくのですが、その最たるものは「紫のゆかり」と呼ばれるものです。

光源氏が生まれ3才の時母桐壷更衣が亡くなる。その母に似た藤壷を追い求め遂には禁断の恋を契る。その藤壷の俤をやどし姪にあたる紫の上を見つけ出し最愛の伴侶に育てあげる。そして晩年には藤壷の姪即ち紫の上の従妹にあたる女三の宮を正妻に迎える。

桐壷更衣 → 藤壷 → 紫の上 → 女三の宮

これが「紫のゆかり」です。源氏物語を読んでいくにはやはりこの背骨にあたる太いラインを常に意識するのがいいと思います。

紫は平安王朝の高貴な色。桐の花、藤の花の紫。そして武蔵野の象徴であるむらさき草(根が染料として用いられた)にも因んでいる。実に含蓄深いテーマ設定ではないでしょうか。

手に摘みていつしかも見む紫のねにかよひける野辺の若草「若紫」

幼き若紫に思いを馳せる源氏の歌、紫のゆかりを象徴する歌だと思います。

そして宇治十帖ではよく似た概念で「形代」というのが出てきます。よく似た人を身代わりとして追い求めるというものです。

宇治の三人の姫君。 大君(おおいぎみ)→中の君→浮舟です。

こちらの方は「紫のゆかり」ほど高尚ではなく身代わり、代用品といった感じに思えるのですがいかがでしょう(それだけ宇治十帖の方がリアリテイがあるのかも知れませんが)。

見し人の形代ならば身にそへて恋しき瀬々のなでものにせむ

(薫→中の君 「東屋」)ちょっと露骨ではないでしょうか。

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4 Responses to 紫のゆかり

  1. 青玉 のコメント:

    四人の一連の女性をイメージした時、連想できる色はやはり紫。
    そして脳裏には薄紫から深い紫色までグラデーションのように色目が鮮やかに浮かんできます。
    「紫のゆかり」 なんと素敵な言葉でしょう!!
    意識の根底にたえず「紫のゆかり」をイメージして読んでいきましょう。

        手に摘みていつしかも見む紫のねにかよひける野辺の若草
    若紫を象徴する和歌でとてもいいですね。覚えることにしましょう。

    とても高貴な気分に浸ってからすごく現実的な話です。
    紫蘇のふりかけ、ゆかりと言いますよね。
    ゆかりのおにぎり、これも好きです
    昔、田舎で蛍取りをした時かごの中に入れた草、紫つゆ草と言いました。

    • 清々爺 のコメント:

      ちょっと出かけており返信遅れました。すみません。

      光源氏の女君たちを分類するに紫のゆかりの4人の女性が背骨となると思います。これに他の女君が肉付けとして位置づけられる。

      紫のゆかり: 桐壷更衣 - 藤壺 - 紫の上 - 女三の宮
      第2グループ: 葵の上・六条御息所・朧月夜・朝顔 → 明石の君
      脇役: 空蝉・夕顔・末摘花・花散里・玉鬘・秋好中宮

      と言った構造でしょうか。先般のNHK100分de名著で三田村先生が示してた車軸構造・らせん構造と同じ考えです(このテキストすごくよくまとまってます。小冊子なのでポイントを思い出すだけなら30分で十分です。便利です)

      赤紫蘇のこと「ゆかり」ということ知りませんでした。これも紫のゆかりに因んでのことのようですね。(私は「ゆかり」で一番ピンと来るのは「恋のしずく」なんですが)

  2. 青玉 のコメント:

    追伸・・・
    そして作者の 「紫式部」 これも象徴的ですね。
    田辺「百人一首」では本名は解らないそうです。
    白州「百人一首」によればはじめは藤式部と呼ばれていたのが後に紫の上にちなんで紫式部と呼ばれたとあります。
    「むらさきしきぶ」と言う植物もありますが地味な花ですね。

    • 清々爺 のコメント:

      紫式部、すごくいい名前だと思います。源氏物語で連想ゲームをすれば第一と第二は「光源氏」と「紫式部」で決まりでしょう。

      平安時代貴族の女性に名前がないってのはおかしな話ですね。「〇〇の母」とか「XXの娘」とかひどいもの、男性社会の悪いところです。

      今でも父系血統だけを重視する競馬では牝馬は単に父の血を伝えるだけのもの。ある馬の血統を言うに「父は〇〇、母の父はXX」と言うのです。母の名前はあっても気にしないのです。全くねぇ。。(余談です)

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