若菜上(10・11) 源氏、女三の宮を承引 紫の上の苦悩始まる

p56 – 70
10.源氏朱雀院を見舞い女三の宮の後見を承引
 〈p39 六条院の源氏の君も、〉

 ①源氏が出家した朱雀院を見舞いに訪れる(@朱雀院)
  源氏は准太上天皇、本来仰々しいはずだが簡略スタイルで訪れる。

 ②源氏・朱雀院互いに昔話をするついでに朱雀院が女三の宮のことを切り出す。
  皇女たちを、あまたうち棄てはべるなむ心苦しき。中にも、また思ひゆづる人なきをば、とりわきてうしろめたく見わづらひはべる
  →朱雀院らしからぬストレートなものの言い方。切迫した気持ちが伝わる。

 ③源氏は先ず春宮を立て、一般論として女性の身の処し方を語る。
  なほ、強ひて後の世の御疑ひ残るべくは、よろしきに思し選びて、忍びてさるべき御あづかりを定めおかせたまふべきになむはべなる
  →そう言えば答えは「源氏」しかなかろうに、、、。自分の首を絞めている感じ。

 ④朱雀院 かたはらいたき譲りなれど、このいはけなき内親王ひとり、とりわきてはぐくみ思して、さるべきよすがをも、御心に思し定めて預けたまへと聞こえまほしきを
  →これも極めてストレートなお願い。必死の願いであることがよく分かる。

 ⑤そして源氏は うけひき申したまひつ
  →ああとうとう源氏は女三の宮を引き受けてしまった!
  →朱雀院は風邪をひいていたがさぞやホッとしたことだろう。

 第二部メインストーリーの一つ女三の宮物語の始まりです。

11.源氏、紫の上に女三の宮のことを伝える
 〈p44 源氏の君は、女三の宮のことをお引き受けしたものの、〉

 ①さて紫の上の苦悩の始まりです。
  さることやあるとも問ひきこえたまはず、何心もなくておはするに、、、、、見定めたまはざらむほど、いかに思ひ疑ひたまはむ

  紫の上は朝顔とのことで相当苦しめられた。それがなくなりもう結婚話はないだろうとある程度安心していたであろうに。

 ②翌日源氏は紫の上に女三の宮のことを切り出す。
  いみじきことありとも、御ため、あるより変ることはさらにあるまじきを。心なおきたまひそよ
  →紫の上の心は凍りついたのではないか。

 ③紫の上 あはれなる御譲りにこそはあなれ。、、、、かの母女御の御方ざまにても、疎からず思し数まへてむや
  →これが良くも悪くも紫の上。泣きわめいてもいい所なのに。
  →それにしても出来過ぎの対応ではなかろうか。

 ④源氏の言い草は誠に白々しい。都合のいい話である。
  →愛する妻への甘えであろうが、こう言い繕うしかないのであろう。

 ⑤紫の上の心内
  心の中にも、かく空より出で来にたるやうなることにて、のがれたまひがたきを、、、、、、かやうに聞きて、いかにいちじるく思ひあはせたまはむ
  →これが紫の上なのであろう。優しくて寛容で物分りがよくて、、、。

 ⑥おいらかなる人の御心といへど
  いとおいらかにのみもてなしたまへり

  「おいらか」=「「おいらか」というのは、このごろ「おおらか」と訳すけど、そうじゃない。年老いて、いろんなことを経験した人が何にあってもそれほど騒がないということです」(大野晋) 

  →紫の上の心中は言葉通りだけではなかったということでしょう。
 

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3 Responses to 若菜上(10・11) 源氏、女三の宮を承引 紫の上の苦悩始まる

  1. 青玉 のコメント:

    何のかのと言いつつ結局は女三の宮の後見を引き受けられるのですね。
    朱雀院の泣き落としに同情?それとも多少の好き心のなせる技?

    そうは言うもののここで気がかりなのはやはり紫の上。
    上にとっては青天の霹靂とも思える事態に意外や意外。
    あはれなる御譲りにこそあなれ。~・・・以下、疎からず思し数まへてむや
    謙遜か卑下か?源氏にとっては拍子抜けするようなご返事。
    紫の上の心情、深い悲しみを察することなく教訓を垂れるのは心外です。
    この場での紫の上、賢明なのか、愚かなのか深い諦観なのか、プライドなのか?

    「おいらか」の意味なるほど~
    私など古稀に近いとはいえ「おいらか」には程遠くこの場面でも怒り心頭、紫の上の態度が誠にじれったい!!
    紫の上の言葉の裏に隠された心の深淵を覗く思いです。

  2. 式部 のコメント:

    尊いお血筋、身分が絶対的だった時代に生きていた人たちは、諦めて受け入れるしかなかったのでしょうね。紫の上はよくできた賢い女性なので、内心の葛藤も表には出せず、心は悲鳴をあげていたように感じます。 この時点で真に出家を望んだでしょうね。
     源氏は身分が最高の皇女でかつ紫のゆかりの姫宮を正妻にすることができ、ある意味では満足するのでしょうが、失うものの大きさには気がついていないのでしょう。
     人間の愚かしさが思われるところです。

  3. 清々爺 のコメント:

    青玉さん、式部さん ありがとうございます。ここは物語の節目大事な個所ですね。

    与謝野晶子の巻頭の歌が全てをよく表していると思います。
      たちまちに知らぬ花さくおぼつかな天よりこしをうたがはねども

    1.源氏は何故女三の宮を承引したのか。
      ①朱雀院の泣き落としに同情したから。
      ②女三の宮が皇女でしかも藤壷の姪にあたる血筋であったから。
      ③自分でなければ女三の宮を幸せにできないと思ったから。

      どれも理由があると思います。①②③ミックスで自分なら朱雀院の期待に応え、女三の宮を幸せにし、高貴な血筋の姫宮を妻にするという自分の願いも叶えられる、、、まあ紫の上には辛いだろうがきっと分かってくれるだろう、、、と思ったのでしょうか。やっぱりゴーマンですねえ。

    2.紫の上の反応、あまりといえばあまりですねぇ。
      「あはれなる御譲りにこそはあなれ。ここには、いかなる心をおきたてまつるべきにか。めざましく、かくてはなど咎めらるまじくは、心やすくてもはべなむを、かの母女御の御方ざまにても、疎からず思し数まへてむや

     何度読んでもこれはできすぎの対応でしょうね。聡明な紫の上、諦めるしかないのを弁えているからでしょうが、少しは抵抗して欲しかったと思います。でもそれをやらないのが紫の上。おっしゃるようにこの日を境に紫の上の心には修復不能の傷が生じ日に日に大きくなっていったのでしょう。

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